声が聞こえる









 何か、違う物を感じて頭が覚めた。

 睡魔に忠実に従おうとしている目蓋を理性でこじ開けると、
 すぐ目の前に異物が転がっていた。

 驚いて思わず身を起こしまじまじとそれを見る。

 「・・・・・・総司?」
 
 規則正しい寝息を立てて青年が傍らで寝ていた。

 名を呼ばれたにもかかわらず総司は気づくこともなく身動き一つすらしない。
 ・・・・・・寝息が聞こえなければ死んでいるかと思う程に。

 体をもう一度横たえ、肘をついて自分の掌に頭をのせ総司の顔を見つめた。
 どうして昨日、自分はコイツがもぐり込んできたことに気づかなかったのだろうか。

 そんなに眠りが深い方だと思ったこともないし、指摘されたこともない。
 むしろ眠りが浅すぎると、そんなに気を張りつめていて大丈夫なんですかと心配された覚えはあった。

 自分でも気づかないうちに疲労が積もりに積もっていたのか、それとも昨夜の酒が過ぎたのか。

 或いは・・・・・・。

 総司の肌は白磁の様な白だった。


  ・・・・・・病んでもなお、輝きを失わない白。



 或いは、コイツの気配に慣れきってしまったのか。


 「土方さん・・・・・・?」
 「・・・ああ、起こしたか?」
 「いいえ」

 白い肌に乱れ落ちた黒い髪をかき上げてやると、総司が驚いた様に目を開いた。

 「どうかしましたか?」
 「何がだ」
 「いえ・・・・・・・」	

 総司は納得いかない様子で上体を起こしかける。

 「総司」
 「はい?」

 笑顔で問い返してくる青年にそれ以上の言葉が見つからなかった。

 昨夜の席で医師から唐突に俺と、局長にのみ伝えられた赤い病。
  総司の体を蝕んでいく不治の病。

 この白い肌のどこにその病が潜んでいるというのだろうか。

 「土方さん?」
 「いや、もう少し寝てろ。まだ夜は明けてない」
 「どうしたんですか?なんか今日変ですよ」
 「昨日の酒が過ぎたみたいだ。俺ももう少し寝るから」

 そう言うと総司が軽やかに笑った。

 「じゃあ起こしにきた鉄之助君が吃驚しますね」

 市村の驚く顔を想像したのか笑い続ける総司を横たえて目を閉じさせる。

 「おやすみなさい、土方さん」
 「・・・ああ」






 *





 *





 *








 総司が寝息を立て始めたのを聞いて俺は襖を開けて外へと出た。

 細かな雨が外を濡らしていて、湿っぽい空気が肌にまとわりついてくる。

 袂から煙管を取り出して唇でくわえると、
 煙が肺に染みこみ身体の細胞が少し落ち着いた気がした。

 静かな雨音が、ふと微かな声で遮られた。




 「                  」




 それから市村がやって来るまで、俺はそこに立ち雨を見つめ続けた。





















 「土方さん、泣いているんですか」






 障子の向こうから聞こえた、雨音の様に震える、声。













 end.