幸せな結末











 あの頃の二人ときたら、いつも手を繋いで暇があればキスをして、
  むかつくぐらい、幸せそうだった。





 何で笑えるのか解らない。

 愛する人が、愛してくれた人が自分ではない人と結婚するというのに。

 彼の底抜けの優しさに呆れる。





 僕があの男を射殺そうと矢を引き絞ったのは1、2回どころか100、200はくだらないと思う。
 でも殺すことが出来なかったのは、彼の笑顔が…あの笑顔が、
 アラゴルンと一緒にいるときしか見られなかったから。


 彼が手を取るのはお美しい夕星姫。
 なのにフロドは笑う。まるで自分の幸せだと言うかのように。
 アラゴルンも笑う。瞳の奥に悲しみを押し込めて、それでも誰より力強く。



 今思えば、あの頃の二人は必死だった。

 許された時を一瞬でも無駄にしないように、少しでも長くお互いの温もりを覚えていられるように。




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 風の強い日だった。
 二人はお決まりの別れの挨拶を述べる。

 元気で、とか、旅の無事を、とか、またいつでも会える……とか。
 会えるわけないのに笑う。

 でも、あの頃の笑顔じゃない。

 フロドは彼が幸せなら自分も幸せなんだと、
 アラゴルンは彼の幸せのためなら何もいらないと、

 はっきり言って二人は馬鹿だ。

 お互いの幸せを願って、二人一緒の幸せは考えようとしなかった。


 「それは違う、レゴラス」

 「だって僕たち二人が幸せになれば、誰かが泣くことになるのだから。
  それは、本当の幸せではないでしょう?」




 誰かを傷つけてまで得る幸せならいらない。
  自分一人が泣けばそれでいい。

 …やっぱり二人は馬鹿だ。

 泣く人というのが夕星の姫君なのか、中つ国の民なのか知らないが、
 最も愛する人を失ってまで、それは守るべきものなのだろうか。






 僕は走り寄って、二人の腕を掴んだ。
 きょとんとした目が四つ、僕を向く。

 「レゴラス?」
 「どうかしたのか?」

 まわりにいた人もこっちの異変に気づいたようだ。
 奇妙な空気が流れていく。

 「レゴラス?どうしたの?」

 フロドが首を傾げる。


 僕は、泣きたくなった。


 アラゴルンはなにも言わない。
 僕の気持ちがわかっている風だった。

 二人の腕を、離す。


 そのままフロドを右腕で、アラゴルンを左腕で抱きしめた。





 「君達は、馬鹿だ」

 二人の耳元で囁く。

 「…ああ」

 アラゴルンの手が僕の背中を軽く叩く。

 「そうだな」





 「ごめんね、レゴラス」

 震える声でフロドが言った。
 背後からすすり泣く声が聞こえる。



 周りの人から見れば別れを惜しむ三人の仲間だったかもしれないが、
 紛れもなくあれはあの二人の逢瀬だったのだ。






 最後の。






 あの時、二人の手は僕に隠れてもう一度だけ繋がった。















 もう、百年以上も前のことになる。





 *






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 かなり古いものらしく紙が黄色くなっている革表紙の本をパラパラとめくる。


 それに黒い影がおちたのに気づいて視線を上げると、予想通りの姿が立っていて目を細めた。

 「おかえり、散歩はどうだった?」
 「来てたんですね。お待たせしてしまって」
 「全然。本を読んでいたしね」
 「なんの本ですか?」
 「読んでみる?」

 フロドの大きな瞳が文字の羅列を追った。

 「…来世」
 「そう。僕もはじめて知ったんだけど、そういう考えがあるらしいね」
 「肉体は死んでも魂は生き続け、
  そしてまた、新しい肉体に生まれ変わる」

 僕が言わんとしていることが分かったのか分からなかったのか、
 フロドは困った様に青い目を僕に向けた。

 「アラゴルンの魂も、どこかで生まれ変わる。
  きっと君に会いに来るよ」
 「レゴラス……」

 そっと小さな手を持ち上げて甲に口付ける。

 「それまでは、不本意でしょうが僕がお守りを」
 「不本意だなんて、光栄です」

 フロドは笑う。

 やっぱりあの頃の笑顔とは違うけど、それでも幸せそうに笑ってくれる。

 「ありがとう、レゴラス」

 僕は笑う。

 あの男の様に力強くはないかもしれないけれど、彼の幸せを願って精一杯笑う。





















 それからきっかり百年、僕は彼を守った。

 その後は……言わなくても、わかるでしょう?
















 HAPPY END.