彼はベッドに座って、壁に背を預けて、死んでいるかのようだった。 M o o N 大きな窓から入ってくる月光が彼の顔に陰影をつける。 月は時々雲に隠れてしまって、その度彼の肌がちらちらと動いた。 それで彼は少し生きているように見えたのだ。 彼自身からは生き物の気配が感じられない。 私は狡猾な猫のように部屋と忍び込んで彼へと近づいた。 彼は上半身裸でジーパンを穿いていた。 こう見ると何処かの雑誌のモデルみたいだと思う。 私がベッドにのぼると年代物のそれはぎしりと鳴く。 「どうしたの?」 彼の首へと伸ばした自分の腕が見えた。 青白い。きっと私も動かなければ死人と見まごわれるのだ。 「また、誰か死んだの?」 別に人の死は私にとってはどうでも良いものだった。 彼にとってもそれはかわらないだろう。 ただ、床の上に血まみれのシャツが脱ぎ捨てられてあったので聞いてみただけだ。 「貴方が殺したの?」 耳元で囁いてみる。 血の臭いはしなかった。嗅ぎ慣れたシャンプーの香り。 彼の髪は濡れている。 「誰かに殺されたの?」 その頬に額を寄せた。 誰かに殺された場合、彼は今どんな心情なのか考えてみる。 後悔?悲哀?寂寥?憤怒?憎悪?虚無?孤独? きっとどれも考えていないのだろうけど。 彼が考えているのは、宇宙での人の存在意味? そんなくだらないことを考える人だったかしら。 私は彼が余りにも無反応だったので悪戯に飽きてしまった。 通常通りの会話に切り替える。 「あのシャツどうするの?洗う?」 「……そうだな、君にあのシミを落とすだけの根性があるなら」 およそ24時間振りに聞いた彼の声は掠れぎみだった。 髪もしっかり乾かさないまま上半身裸でいたのなら当然だと思う。 「ないわ。決まってるでしょ?」 「じゃあ、いいよ。捨てる」 「何を考えていたの?」 「ああ…、」 彼がふ、と笑った顔が月光に浮かび上がる。 「いや、あのシミを落とすだけの根性が自分にあるか考えていた」 私は少し驚く。やはり彼の行動はまだまだ予測不可能だ。 だからこそ、こんな側にいるのだけれど。 「結論は?」 「そんな根性も執着もない」 「ステキ」 end.