FROM SKY 朝目覚めて、玄関のドアを開けるとレオリオが居た。  レオリオは白いシャツに黒いスーツと、最後に会ったときの格好をしていた。  彼は空色の車に預けていた身を起こして、  透けるような青空を背にしてこう言ったのだ。  「空を見に行こう」  空からの使者は、空色の車で、空色を背負って現れた。  レオリオらしい演出だった。  四月ともなると陽射しは少し暑いくらいだ。  私は車の窓を開けた。  クラッシクな車はボタン一つというわけにはいかず、  私はレバーをぐるぐると回さなければならなかった。  心地よい風が吹き込んでくる。  「どうして私の住んでいる所が分かったんだ?」  ふと思いついて運転席の男に訊ねる。  「お前のことならなんでもお見通しだよ」  男は歌うように答えた。  確かに愚問だったと私は反省した。  「元気だったか?」  という質問には男は答えず、お前はと切り返してきた。  私もお返しとばかりに沈黙を守る。  相変わらずだなとレオリオは苦笑した。  「・・・最後に会ったのは、秋だったな」  徐々に街から乖離していく風景を追いかけながら私は呟く。  「ああ、お前は泣いてた」  そう、そうだった。  私はあの日、この男の前で初めて泣いたのだった。  けれどそれはレオリオの為ではなかった。  ・・・自分の、為だった。  今の街に住んでから随分と経つが、この方面には来たことがなかった。  何もないからだ。  いま車は野原を切り裂くような真っ直ぐな道を進んでいる。  柔らかな緑と春色の花。  こんな風景が身近にあったのだ。  とても幸福で平和な風景が。  「お前はいつもそうだ」  無意識に口に出していた。  笑いを含んだ言葉の真意を、レオリオは分かったのか分からなかったのか、  ただ優しく笑った。  すると突然レオリオはハンドルを左に切った。  緩やかなカーブを描いて、車は野原へと突っ込む。  不規則で、激しい振動が私を襲った。  「ちょ、レオリオッ!?」  何かアクシデントでもあったのかと隣を見遣ると、  男の顔は悪戯をする時の子供の笑顔で満ちていた。  どうやら確信犯だったらしい。  視界は相変わらず安定しない。  「不安か?」  レオリオが訊いてくる。  私は額を押さえた。  「もうどうにでもしてくれという気分だ」  レオリオは心底楽しそうに了解と笑った。    暫くして、車はやっと止まった。  どこなのだろうと私は辺りを見回したが、何もなかった。 ただ野原の緑が広がっていた。  青い空に白い雲が浮かんでいる。  車のフレームの中から見るそれらは、いつもより鮮やかだった。  「何もないじゃないか」  「何もない場所を見せたかったんだよ」  レオリオは意味ありげに笑う。  「クラピカ、いいか?これは夢だ」  ああ、  「夢だと思えば何もかも納得できるだろう?   俺がここにいることも、お前がここにいることも、何もかも」  私は額から手をずらして瞼を押さえた。  光の残像が散る。  外はこんなに明るいのに、私の周りはどうしてこんなにも・・・。  「夢なんだから、目覚めればリセットだ。   だから、ここでは泣いても良い。   弱音を吐いても誰も本当は聞いてないんだ」  私は手を下ろしてレオリオの顔を見る。  気遣う表情のレオリオの顔。  明るい光。  そうだ、この男はいつもそうだ。  私は手を伸ばしてレオリオの体温を求める。  広い肩幅、いつものオーデコロン。  掌が私の背中を支える。  「・・・会いたかった」  「だから会いに来た」  「好きだ」  「知ってたよ」  「ずっとこうしていたい」  「・・・それは、無理だ」  私は体を離して、レオリオと、肩越しの青空を見る。  青空は透けるようで、吸い込まれそうで、果てしなく続いてるようで。  私はその青を目に映したまま、泣いた。  目覚めたとき、きっと私は泣いている。  君が隣にいない寂しさに、耐えられず泣いている。  そうだ、いつも君はそうだ。  いつも私の幸せを願っている。  それならば、側にいてくれればいいのに。   end. 解説という名の蛇足↓ どうしてこんな電波な内容になったかというと これは本当に夢の話で 現実ではレオリオが死んでしまった設定だからです。 二人が最後に会った秋の日というのはレオリオの葬式の日で その日から元気のないクラピカを心配してレオリオがやってきたという話でした。