022-涙雨 雨が降る、私は泣く。君が無く、空は泣く。 「電気くらい点けたら如何ですか」 薄闇の中に立っている男にそう声をかけたが、反応は返ってこなかった。 そのまま後ろ手にドアを閉める。あえて電気は点けなかった。 外の雨音が耳をくすぐる。 「大佐、」 窓に向けられた男の顔は私からは見えなかった。 「仕事がたまっています」 沈黙。 ため息をついて、男へ近寄る。 一歩足を運んだところで、男が口を開いた。 「ため息をつくと、幸せが逃げるよ。中尉」 私はしっかり足をそろえて立ち止まる。 「誰のせいで私がため息をついているとお思いですか」 「ヒューズがそう言ったんだ」 「―――」 今では見られなくなった笑顔が脳に甦る。 「雨の日はどうも、気持ちが塞ぎ込んで駄目だな」 「あれからまだ一ヶ月とたっていません」 「だが、一日は確実に過ぎた。一週間も通り越した。あと少しで一ヶ月だ」 「はい」 「なのに、どうしてだ。今でもひょっこりと現れそうな気がするのは」 「それは当然のことです。大佐」 「ホークアイ中尉」 「はい」 「こっちに来てくれるか」 手を伸ばせばすぐ届く距離まで私は数歩足を進め、 部屋に入ってから初めて薄闇に浮かび上がる男の顔を見た。 懸念していた泣き顔ではなかったので、安心する。 男の両腕がゆっくりと上がって、私に触れた。 肩におかれた右手にはグローブがはめられていない。 「中尉」 「はい」 「抱きしめてもいいかな」 私は幸せが逃げるらしいため息を一つつく。 「それでお仕事をする気になってくれるなら、お好きにどうぞ。大佐」 男は予想通り笑って両腕を頭の上に軽くあげた。 ホールドアップ。 「それでこそ君だよ、中尉」 大佐は電気を点ける為に私の横を通り過ぎていった。 さっきまで彼が眺めていた窓の外を見る。細かい雨が街を暗く濡らしていた。 パチリと背後で軽い音がすると同時に突然白んだ視界に固く目をつぶる。 その瞬間、軽く唇に何か触れたが気付かない振りをして 「仕事をしてください、大佐」 と言った。 「はいはい、わかりましたよ」 「週末までには終わらせてくださいね」 「どうして?」 私は明るさに慣れた目を開ける。すぐ前に彼がいた。 「会いに行きましょう」 そう言っただけで彼はなんのことか理解したらしく、微笑んで結局私に両腕を回した。 私が泣いても、君は戻らず。私は笑って、君に会いに行く。 end.