017-枯れ野 あいしている、と君は言う。  だから何にも分かっちゃいないんだ、君は。  四方を木々に囲まれたこの場所。  不似合いな程上品な作りの白いテーブルと、二脚の椅子。  カップの中の冷め切った紅茶の中に落ち葉が一枚舞い込んだ。  クロロは微動だにせず文章を目で追う。  真向かいのネオンは椅子の上で膝を抱えたまま、まどろんでいる様だ。  素足の爪先が、丈の長いスカートの縁からのぞいていた。  全ては静謐で無感動で周期的だった。  クロロはカップの中に落ち葉が入る回数を数えるのが馬鹿馬鹿しくなってきていたが、  数を数える習慣が染みついているせいで、カウントは既に1083回目に達している。  これで時間が分かればその周期が何に基づいているのか分かりそうなものだったが、  生憎と正確な時間を知る術はなかった。  太陽はずっと45度の位置にあるし、 雲は動いている様で実のところ全く動いていないのだ。  カップの中の落ち葉は、気づくと消え、また落ちてくる。  まるでビデオが何度も巻き戻されて再生される様に、  この世界はこの空間、時間から抜け出せないようだった。  文章を一字一句漏らさずに追い、内容を理解しながらも、 クロロはこの世界のことを考えていた。  ファンタジイは彼の尤も嫌うことであったが、 手がかりはないのでそれに頼るしかなさそうだった。    彼の憶測では、ここはネオンの精神世界である可能性が一番高い。  自分のテリトリーをつくり、そこで戦闘を行う念能力者がいるのだから、  彼女が自分を取り込んだとしても、別段疑問は残らない。  現に、彼女は体力気力を消費しているのか、 ここに来てからというもの寝てばかりだった。  冷静にここまで分析しながらも、クロロは行動を起こすつもりはなかった。  本は面白いし、尽きることはない。  空腹、その他諸々の欲求も感じない。  ある意味、理想の世界ではあった。  あいしてる、とネオンは言った。  まだ、二人がここではない世界に居た頃の話だ。  愛するなんていう感情は幻想だとクロロは思う。  人は他人から愛されるが為に、自分も他人を愛すという感情を持つ。  ギブ アンド テイクなんて生易しいものではなく、  他人を愛す人間がいなければ、自分が愛されることがないからだ。  この矛盾が分かるだろうか?  人が、自分が殺されたくないから、殺人を罪と規定したことに少し似ている。    ビデオテープが何度も再生することで劣化していくように、  この世界にもいずれ終わりが訪れることは分かっていた。  もしかしたらそれはネオンが死ぬ時かもしれないし、  おそらく二人の体がある、あちらの世界が滅ぶ時かもしれない。  とりあえず、クロロにはその時を悠長に待つ余裕があった。  1084枚目の落ち葉がティーカップに吸い込まれた。  end.