風花(かざはな)……@初冬の風が吹いて、雪または雨がぱらぱらと降ること。その雪や雨。
A晴れた日に風に吹き送られてくる雪。
風化(ふうか)………@岩石が日射や空気・水などの作用で、変質・分解しくずれていく現象。
A人間の意志や記憶・感情などが、時の経過の中で次第に失われていくこと。
B人を教え導き、徳に感化させること。
白く、儚く、
ハラ ハラ ハラ
風 花 風 葬
唄を歌いながらくるくる廻る。
腕を羽の様に広げて、舞い散る白の欠片を見上げて、
「フロド」
本当はその声が聞こえるのをずっとずっと待っていた。
遠くから見れば風花が舞っているように見えるに違いない。
大きな森の中の小さな野原。
白く小さい花びらが一面に咲いていた。
強い風に吹かれて、
舞い上がる、
散っていく。
「綺麗な場所でしょう?ガンダルフが教えてくれたんです」
アラゴルンは指先につまんだ欠片を見つめる。
脆く、儚いそれは触れていることさえも躊躇って、
すぐに手を、放してしまった。
それを見て、フロドは笑う。
アラゴルンが怪訝そうな顔をするのにもかまわず、笑いながら、もう一度廻る。
くるくるくる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メチャクチャなスッテプを踏んで髪を風に遊ばせていると、
突然、伸ばしていた指を絡めとられた。
「踊る相手は、私では不足かな?小さき人」
少しの沈黙の後、一際大きくフロドは声をたてながら笑って、大きい手の平に自分の手をのせた。
大きな森の中の小さな野原。
そこで一人の人間と一人のホビットがちぐはぐなダンスを踊っていた。
二人の笑顔は白い風に包まれて、どちらかがスッテプを間違えるたび声を上げて笑った。
「アルウェン様に見られたら叱られますね」
それはふと笑いが途切れた時。
「フロド」
たしなめるようにアラゴルンは言う。
自分にはその権利がないと分かっていながら、言わずにはいられなかった。
フロドはそれに気づかない振りをして言葉を紡ぐ。
「明日、シャイアに帰ります」
「今日は貴方にお別れを言う為に呼んだのです」
アラゴルンが恐れていたとおり、照らし合わせたように二人の動きが止まった。
花びらが二人をかすめては遠くに舞っていく。
「ああ・・・・・・こんなに風が強いと、」
何もかも崩れていく、と。
思い出も、願いも、感情も
風が壊していく。
「・・・・・・君に別れを告げられるのは、これで二度目だ」
フロドは悲しそうに笑って、
「あの時、手を放すのがあんなに辛かったのに、」
つないだ右手を持ち上げた。
「もう一度この手をとってしまいましたね」
ごめんなさい、と小さく謝った。
これが最後、もう二度と・・・・・・・・・・・・・・・
貴方の手を縛ったりしませんから。
「・・・南のある地方には」
唐突にアラゴルンは口を切った。
「死体を雨風にさらして自然に消滅させる葬り方があると聞く」
風化 風葬。
「君は、その心を」
アラゴルンは一瞬息をのんだ。その答えを聞くのがひどく不安だった。
「風葬すると、言うのだな?」
まだ繋がったままの両手に力を込める。
放すことが何を意味するのか解っていた。フロドが何を考えているのか。
明日が二人にとって何の日なのかも。
フロドはゆっくりと灰色の瞳を見つめる。
最初に好きになったのはその瞳だった。今にも雨が降り出しそうな鈍色。
大好きだった。好きだからこその、自分の決意。
せめて貴方の記憶に残る僕が少しでも幸せそうに見える様に。
口の端を引き上げて微笑む。
「はい」
最後に、貴方の瞳に映った僕は何故か泣きそうな顔で笑っていた。
少しの躊躇いのあと、大きな手が小さい手を再び解き放つ。
それが二人の、
最後。
唄を歌いながらくるくる廻る。
腕を羽のように様に広げて、舞い散る白の欠片を見上げて。
嘘のように晴れた、夏至の前日。
一人の風葬者が、大きな森の中の小さな野原で
いつまでも、いつまでも、
たった一人で
踊っていた。
end.
image song「風化風葬」song by Cocco