015-紅葉  夕焼けに照らされて、彼女の髪は赤銅色に燃える。  「景麒」  一本芯の通った声が自分の名を呼んだ。  それはどんな傷でも癒していく。押さえきれない歓喜を呼び覚ます、声。  「秋は好き?」  くるりと彼女の顔がこちらへと振り向いた。  髪が風にのって舞い上がる。  「好きです」  「どうして?」  「実りの季節だからです。民なら皆、この時期を喜びます」  「ああ、そうか」  はらりと、頭上から紅葉が舞い落ちる。  「私は時々景麒が羨ましくなるよ」  「何故です?」  「民の気持ちが解るから、かな」  彼女は寂しそうに微笑む。  緑色の双眸が夕焼けを映して輝いた。  「主上は、秋がお嫌いですか」  「ううん。秋は好きだよ。というか、」  主上は掌を広げて、ゆっくりと落ちてきた紅葉を受けとめた。  「紅葉が好きだ」  白い肌に赤い紅葉がよく似合う。  「綺麗なままで自らの身を地に落とし、土に還り、新しい命を育む紅葉が、私は好きだよ」  彼女の手が傾く。紅葉の葉は落ちて、彼女の靴の先へと降り立つ。  「そんな王に私はなれるだろうか?」  彼女は自分の両手を見つめる。  その手に包まれた、幾千幾万の命が見えるとでも言うように。  「・・・いえ」  彼女は少し傷ついたような目をして、私を見つめた。  「主上は皆の光に、もうお成りです」  彼女は呆けて、幽霊でも見るように私をまじまじと見つめた。  私は思わず舌を滑ってしまった自分の言葉の大胆さに二の句が継げなくなる。  困惑したまま突っ立っていると、彼女は一、二歩私へと歩み寄り、足を止めた。  そして、次の瞬間この世で一番の誉れを貰った武将のように微笑む。  美しいが力強い、しなやかな笑み。  予感が全身を貫く。自分が死ぬ間際に思い浮かべるのは彼女のこの笑顔だと。  幼い子どもがそうするように、 景麒は愛しい人の笑顔を箱の中に閉じこめ、その日が来るまで紅葉の中深くへと埋めた。 end.
紅葉の花言葉:大切な思い出・秘蔵の宝