005-春告げ鳥  「鴬」  その暁色の双眸が上を向いたのにつられて顔を上げる。  梅の香が風にのって強まった。  「俺、鴬好きだった。春が来れば草とかが生えて、飢え死ぬ可能性が少なくなるから」  その少年のままで時を止めてしまった腕を精一杯空に伸ばす。  梅の花と戯れていた鴬が六太のその様子を見て不思議そうに首をかしげた。  「だから、いつも、春を待っていたんだ」  鴬は一声高く啼いて飛び立っていった。  尚隆はその小さな体を抱き寄せる。  六太の瞳はまだ空に捕らわれたまま。  「尚隆」  「なんだ」  「雁を滅ぼすなとは言わない。言えない。 それを承知で俺はお前を選んだから。でも、せめて滅ぼすなら春にしてくれないか。 冬にむかう頃に王を失うのではあまりにも民が可哀想だから。まだ春なら希望がある」  「希望?」  「頼む」  「俺がそんな中途半端な男だと思うか。心外だな」  六太はゆっくりと視線を尚隆へと向けた。  「民は残らない。家も、草木も、全てをこの地から消し去る。次の王がまた一から始めればいい」  「でも、」  薄紫色の目が青い空を映す。いないはずの鴬が見えた。  「俺は死ぬなら春がいい」  ザァァァ、と強い風が吹いた。梅の花びらがすこし散る。  その風にも名前があるはずだが尚隆は知らない。  「鴬には、死を暗示する意味もある」  そう言うと、六太の瞳孔が少し動く。生きているのだ。  まるで人形のように無機質なのに。  風が金色の細い髪を一束乗せて流れた。  「啼(泣)きながら梅(埋め)に行くから、だと」  尚隆はその作り物のように美しい唇へと口づけた。  「どうせなら、一緒に鴬に埋めて欲しかったな」  そう言うとやっと六太は顔を歪めて人間らしい表情をした。  そして小さな声で、そんなことを言うのは反則だと、呟いた。  どこかで鴬が啼いた。  end.