001-名残の雪 ああ、また今年もこんな季節になったのか 曇天から落ちる淡雪を見つめる。気温は冬。なのに、暦はもう、春。 がらんとしたグラウンドに独り立ちすくむ。 やるべきことは決まってるのに足が動かない。 理由は知らないけれど、時々襲ってくるこれはこういうものなんだと 半ば無理矢理に割り切る様にしていた。 白い固まりが風にのって空を舞う。 灰色にくすんだ街にはあまりにも似合わず、綺麗だと素直に喜べなかった。 アイツがいればきっと手放しで喜ぶのだろう。 部活でかいた汗が冷めて肌がピリピリと痛い。 早く帰ろう。どこへ。 足が止まる。どうして。 笑顔がこびりつく。泣きそうな顔で笑うな。 いつもみたいに俺を馬鹿にした笑みで。 泣くな。お前の涙なんて見たくない。 去年の今頃、親しかった友人が夢を追いかける為に俺の元を去った。 駅のホームで二人、名残雪を眺めながらまるで昔の歌謡曲だと笑った日が遠い。 「この街で見る雪はこれが最後だな」 金髪が笑う。 「去年より綺麗になったなんて言わねぇぞ」 「昔から綺麗だもんな」 「もう、六年か」 小三の春に転校してきた金髪は確かに益々輝きを増して、俺の前にある。 「長いようで短かったな」 「サンジ」 「ん?」 「いつか、お前のメシ食いに行っていいか?」 彼の顔がうつむく。 「そ、だな。うん、お前が全国一になったら…そうしたら」 けたたましい警鐘とともにひび割れたアナウンス。 サンジが荷物を肩にかけ一歩ふみだした。 その後ろ姿を見つめる。 雪が、コンクリートに落ちては溶けていった。まるで俺たちの六年間のようだ。 「サンジ」 呼びかけると共に電車が彼の前で止まった。 「そこで、名前呼ぶ奴があるか、クソ…」 泣きそうな笑顔はその時のもの。 あれから一年俺らは連絡をとりあうこともせず、それぞれの道を歩いていた。 そうだ、この道はお前へと続く道だった。 灰色のコンクリートではなく茶色のグラウンドに雪が落ちて溶けていく。 今見てもなんの感傷も湧かない。 雪は溶け、俺たちの思い出もあの日溶かしたはずだ。 なくす過去などもうない。 名残雪も降る時を知り、 互いに思いを告げることもなく過ぎ去った季節のまま溶けていった。 end.